行動心理学を活用した武術稽古でよりよく生きる 捌術研究会

本ブログは武道・武術稽古を勧めるためのブログです。

武道・武術には「身法」と「心法」があります。

・身法とは、

突き、蹴り、投げ、締めなどのいわゆる格闘技術のこと。

・心法とは、

未然に戦いを防いだり、回避したり、相手を傷つけない戦い方目指すなど、また、必要であれば、決死の覚悟を養成する、いわゆる「現実社会を生き抜くために必要な知識と技術のこと。

古の武術家が座禅や瞑想に取り組んでいたのは、武術の本質に迫っていこうとする上級者以上で、「心法」の稽古が中心となっていたからでしょう。

昨今の武術や護身術の教室では、体術ばかりが注目されている感がありますが、武術や護身術における極意だの奥義だのというのはほぼ間違いなく、「心法」のことでしょう。

「身法(格闘技術)」を学ぶこと自体否定はしません。というより、むしろしっかりと身につけるべきであると思います。意にそぐわず、「生きるか、死ぬか」という二者択一の究極な状況になった場合、自分を救うことが出来るのは法律ではなく、自分自身でしかないでしょう。

 

「心法」の重要性

ルールの無い現代社会で、自分の身を護ろうとするならば、「心法」をしっかりと身につけていく必要があります。なぜなら格闘技というものは、「ルール」があり、そのルールにおいて使用可能な技術を徹底的に磨き上げ、試合という「場」で「優劣勝敗」を競い合うというものです。そして、武術というものはルールの無い戦いの中にあるものです。

ルールがないということは、相手がどんな攻撃をしてくるかわからない、ということです。ここまで話すと、「身法」を学んでいる人たちは、突き・蹴り・投げ・締め、これに刃物や飛び道具、そして複数戦といった、「身体的暴力」まではイメージできると思います。

しかし、「身法」を学んでいない人たちにとっての攻撃とは、自分の得意とするもので攻撃を仕掛けてきます。それは、権力や財力に物をいわせた暴力、すなわち「経済的暴力」、「心理的暴力(精神的暴力)」や「社会的暴力(社会的隔離)」などです。

権力や財力に物を言わせた暴力とガチでやり合おうと思ったら同等以上の権力や財力がないと話にならないでしょう。また、「身体的暴力」についても、現実的には身体的強者が身体的弱者を襲います。しかも、複数の身体的強者がたった1人の身体的弱者を選別し、計画的に確実に負けない状況を作り、隙をついて襲ってきます。そして、この時の襲撃者の選別眼というのはかなりの高精度であると言います。

例えば、1人の小柄な女性が大柄な屈強な男2~3人相手に自分の身を守ることは現実的には不可能に近いでしょう。

また、仮に武術身法・格闘技を修得していたとしても複数の相手で、かつ飛び道具を含む武器を使用されたら絶体絶命でしょう。

犯罪白書等によると、不同意性交や不同意わいせつを含む傷害・暴力事件の6割から7割は顔見知り(親、兄弟姉妹、親戚、会社の上司、同僚、後輩など)の犯行だと言われています。であるならば学生として、社会人としての円滑な人間関係を構築し、顔見知り間でのトラブルを避ける、また、犯罪危険地帯に踏み込まないような知識を、トラブルに巻き込まれた場合の回避方法を知る、身につけることにより、危険予知・危機回避能力を高めること、すなわち「心法」が重要になってくるのです。

 

「心法」の具体的な内容とは?

これは、武術家・護身術家のみではなく、人として、社会人として、「生き抜くために」身につけなければいけない知識でもあります。これらのことは、行動心理学、犯罪心理学、社会心理学などの基本的な知識を身につけることによって習得可能です。

武術・護身術における「心法」の根幹を成すのが、他者の心を推測する能力で、心理学では「心の理論」といいます。人は「心の理論」をもとに他者とのコミュニケーションを行っており、この「心の理論」が存在しないと他者との良好なコミュニケーションは成立しませず、自己中心的で、一方的な伝達となってしまいます。

しかし、「心の理論」はあくまでも「他人の心を推測すること」であり、そこには「誤り・推測違い」が含まれます。この「誤り・推測違い」が大きければ大きいほど、他者との関係性にわだかまりや衝突が発生しやすくなります。

このわだかまり・衝突が大きくなると「恨み(うらみ)・妬み(ねたみ)・嫉み(そねみ)」などの負の感情が発生し、トラブルの原因となります。

他者とのトラブルを避けるためには「心の理論」の精度を上げていく必要があります。そのためには、以下のことについての一般論を理解しておく必要があります。

・人間の行動原理(行動心理学)

・他者のしぐさや態度に表れる感情の変化(行動心理学)

・個性の傾向(自己理解、他者理解)(FFS理論など)

・自分の感情、特に怒りの感情のコントロール方法(アンガーマネジメント)

これらのことを理解したうえで個別対応を検証することにより、危険を理解し、危機予測、回避が可能となり、他者とのトラブルを最小限にすることができます。

しかし、所詮、人間が行うことです。絶対ということはありません。トラブルが発生してしまうことだって可能性としては当然あります。

そのためにさらに理解しておかなければいけない一般論が下記の内容になります。

・犯罪者(襲撃者)の行動原理(犯罪心理学)

・素早い意思決定方法(OODAループ)

・格闘技術(いわゆる武術・護身術・格闘技)

格闘技術で注意すべきことは、たとえ使わざるを得ない状況であっても、目的はあくまでも「危機脱出」であり、相手を打ち倒したり、優劣勝敗を競い合うことではないということです。

捌術研究会で研究している現代武道・武術は、犯罪者から身を護るだけに使うものではなく、応用することで、身近な人間とのコミュニケーションを円滑に保つことにも役立てられることを目指しています。